コラムColumn

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事業価値を創造できる弁護士像を求めて ~中小企業・スタートアップ企業への示唆~

近年、事業価値を向上させるうえで、法務機能の役割に注目が集まっている。「法務機能」とは、契約審査、法律相談、訴訟対応、コンプライアンス、コーポレート・ガバナンス、個人情報保護など、法務部門が担っている機能をいう。

 

1 なぜ法務機能は事業価値の向上に役立つのか

 

では、どのように法務機能は事業価値の向上に役立つのか。経済産業省の報告書では、守り(ガーディアン機能)と攻め(パートナー機能)の観点から、次のような整理がされている[1]

⑴ 「ガーディアン機能」とは、「法的リスク管理の観点から、経営や他部門の意思決定に関与して、事業や業務執行の内容に変更を加え、場合によっては、意思決定を中止・延期させるなどによって、会社の権利や財産、評判などを守る機能」である(報告書5頁)。

つまり、会社がすでに持っている権利や財産、評判などの資産を、法律を活用して守ること、これによって事業価値を維持・保全することである。

⑵ これに対して、「パートナー機能」は、より積極的に、法務機能が事業価値の創造に貢献できるとするものである。

「パートナー機能」とは、「経営や他部門に法的支援を提供することによって、会社の事業や業務執行を適正、円滑、戦略的かつ効率的に実施できるようにする機能」とされている(報告書5頁)。

例えば、事業が直面しうるリスクを分析・評価して、それに法的対策を講じることで、リスクを低減することができる。それは、安全・安心に事業を展開し、投資を行う基盤となる。

これにとどまらず、法務機能は、ビジネスチャンスを拡大することまで可能だと論じられている(報告書8頁)。例えば、新規事業の適法性が現行の法令や判例に照らして明確でない場合に、その適法性を支える法的ロジックを提供できれば、その事業を新たに展開でき、事業価値を創造できる。

このように法律のルールを駆使して事業を創り出すこと、さらには、事業に必要なルールやその解釈を創り出すことまで求められているのである。

⑶ そして、このような法務機能を発揮するためには、法務部門が経営陣や事業部門と意思疎通を図り、共に価値創造を担っていくこと(共創)の重要性が指摘されている(報告書6頁)。

 

2 中小企業やスタートアップ企業への示唆

 

報告書が指摘する、事業価値創造への法務機能の役割は、中小企業やスタートアップ企業にも、一般的にはあてはまるだろう。これら企業も、新規事業の立ち上げや会社の設立に際して、リスクに対応したり、事業を展開する法的基盤を必要とする点で大企業と異ならないからである。

しかしながら、社内に法務部門を設置し、専門的な人材を育成していくことができる大企業とは異なり、社内に法務部門を抱えることが困難な中小企業や、これから事業を立ち上げるスタートアップ企業にとっては、法務部門の強化という手段は取りがたい。そこで、外部の法律専門家である弁護士とのパートナーシップが重要になる。

⑴ 弁護士との顧問契約・委任契約の活用

パートナーシップのかたちとしてまず考えられるのは、弁護士と顧問契約を締結することである。これにより、スピーディに弁護士の法的アドバイスを受けることができる。

しかし、毎月の顧問料負担と受けられるサービスが釣り合わないという懸念もある。そこで、例えばプロジェクトや案件ごとに弁護士に依頼するスポット型の委任契約や、弁護士に相談・依頼した時間等に応じて報酬を変動させる実績連動型の顧問契約など、契約のアレンジメントを工夫することが考えられる。

⑵ 監査役・社外取締役の活用

さらに、より自社に精通した弁護士を求めるのであれば、監査役や社外取締役として弁護士を招へいすることも考えられる。

監査役や社外取締役は会社に対して忠実義務を負っているから、役員となった弁護士は会社の経営にも積極的に関与していくことになる。そして、会社と弁護士との委任契約でも、アレンジメントを工夫することにより、効率的かつ効果的な法務機能を手に入れることができる。

 

3 求められる弁護士像

 

このような役割を弁護士が果たすには、弁護士自身の取り組みも不可欠である。

これまでは、新しい事業を展開しようと弁護士に相談しても、とかく事業に伴うリスクばかりが強調され、そのリスクの解決策までは示されず、弁護士のアドバイスが新規事業の展開を抑止していた面もあるかもしれない[2]

まずは弁護士自身が、かかる面を自省し、みずからのアドバイスにより事業価値を共創するのだというマインドへ転換する必要がある。

その理念となるのは、「法律に精通したビジネスパートナー」としての弁護士像であろう。弁護士は、たんに法律情報を提供するだけでなく、その情報がビジネスにどう役立つのか、パートナーの直面する課題を克服するにはどのようなオプションを創造できるのかまで一緒に考えることが必要である[3]

事業者と弁護士との協働による事業価値創造への取り組みは始まったばかりであり、さらなる工夫が求められている。

[1]  経済産業省『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~』(2019年、https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/homu_kino/pdf/20191119_report.pdf、以下では「報告書」として引用する。)

[2]  報告書10頁では、「法務部門に相談を持ち掛けると、新規事業の開始が遅れたり、場合によってはその可能性が消滅したりしてしまうのではないかといった懸念を有する者が少なからず存在したことも事実」と指摘されている。これは、弁護士のアドバイスにも妥当する面があるのではないか。

[3]  報告書31頁でも、社内の法務部門に求められる役割として「経営と法務の専門性を兼ね備えた者」になることが指摘されている。同じことは、外部の法律家にも妥当するであろう。

この記事を書いた人

hirata
東京弁護士会所属
平田真太郎 Shintaro Hirata
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