ご相談事例Case
取締役解任の「正当な理由」
Q:当社は、私が、友人の取締役Aとともに創立した株式会社であり、私が70%の株式を保有しています。Aとは長年強いきずなで結ばれ、ともに会社の事業拡大に努めてきましたが、ある事業の方針を巡って喧嘩になり、今では会社の意思決定にも困難を極めています。そこで、私はAを解任したいと考えているのですが、問題はないでしょうか。
A:株式会社の取締役は、株主総会の普通決議でいつでも解任することができます(会社法339条1項)。ご相談者は、会社の株式の70%を保有しているのですから、株主総会決議により、取締役Aをいつでも解任することができます。
注意が必要なのは、解任について「正当な理由」がないときは、損害賠償請求を受けるおそれがある点です(339条2項)。そして、解任されなければ得られたであろう利益(残存任期の報酬など)が損害賠償として認められることになります。
この規定は、株主総会はいつでも取締役を解任できるとして株主総会に会社の支配権限を与える一方で、これにより不安定になってしまう取締役等役員の地位を保護することにより、両者のバランスを図るためのものです。
では、いかなる場合に正当な理由があると認められるのでしょうか?
取締役に法令違反や職務上の不正行為があった場合には、正当な理由が認められます。また、心身の故障により職務執行を継続できない場合も正当理由はあるとされています。他方で、経営能力が不足していたり、経営上の判断に失敗したことを理由にする場合に、正当理由が認められるかは難しい判断となります。この点、経営を続けさせることに障害となる事情があると言えれば、正当な理由を肯定できるとの見解もあり、参考になると思います。
これに対し、個人的な感情、信頼関係のほころびだけでは、正当理由は認めがたいと考えられます。あくまで経営者としての能力、適性が問題となりますので、この点との関連をよく検討することが大切です。
ご質問のケースでは、ある事業を巡って喧嘩になり、信頼関係が損なわれてしまったという事情があります。しかし、それだけでは、解任しても正当理由がないとして損害賠償請求が認められるおそれがあります。大切なのは、喧嘩になった事情やその後の経緯からみて、Aには取締役としての能力、適性が欠けていると客観的に判断できるか否かという点にあります。
正当な理由のような評価的要素は、裁判所の判断が事案によって大きく異なるため、慎重な判断が必要です。
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