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ご相談事例Case

成年後見問題

被後見人がした不法行為に対する家族の責任

Q:私の父は認知症が進んできたため、私は家庭裁判所から父の成年後見人に選任され父の財産管理を行っていました。また、私の母も健在でしたので、二人で父と同居してその面倒をみてきました。父はたまに家の外を徘徊することがあったのですが、ある日、父は徘徊した際に、路上に停めてあった高級外車にキズをつけてしまいました。そのため、私と母は修理代金として200万円を請求されているのですが、支払う責任を負うのでしょうか?

 

A:責任を負うか否かは、被後見人と家族との日常生活における接触のあり方や問題行動が突発的だったかなどを総合考慮して、個別具体的に判断されることになります。

 

認知症が原因となって精神上の障害があり、自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあれば、その者は損害賠償責任を負いません(民法713条)。父親の認知症が相当進んでおり、判断能力が衰えていたという場合には、父親自身は責任を負わないと判断される可能性が高いと思われます。その場合は、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(「法定監督義務者」と呼ばれています)が、損害賠償責任を負います(民法714条本文)。

そこで、被後見人の家族が、法定監督義務者に当たるかどうかが問題になってきます。もし、法定監督義務者にあたるとすれば、さらに監督義務を怠っていたと判断されると、被後見人が生じさせた損害(修理代金200万円)を賠償しなければならないことになるのです。

この点に関係する最高裁判所の判決が出されました(最高裁判決平成28年3月1日)。以下では、この判決を参考にしながら、検討していきたいと思います。

 

まず、成年後見人は、法定監督義務者にあたるでしょうか。

成年後見人は民法858条により、被後見人の身上に配慮すべき義務を負っています。しかし、上記判決は、これは契約等の「法律行為」を行うときの配慮義務を定めたものであり、現実の介護や行動の監督まで求めたものとはいえないとしました。したがって、成年後見人であるということだけでは、法定監督義務者にあたるとはいえません。

 

また、配偶者は、法定監督義務者にあたるでしょうか。

配偶者は民法752条により、同居協力扶助義務を負っています。しかし、上記判決は、この義務は夫婦間の義務であり、第三者との関係で夫婦の一方に作為義務を課すものではないとしました。そのため、妻だからといって、認知症の夫が他人に害を加えないよう行動を監督する義務があるとまでは直ちにはいえません。

 

しかし、ここで問題となるのは、成年後見人や配偶者という地位だけでは監督義務は否定されるものの、上記判決は、その者が被後見人と日ごろから密接に接触し、監督義務を引き受けていたと評価される場合は、法定監督義務者に準ずる者として、責任を負うことがあるとした点です。被後見人の不法行為に対する家族の責任を考えるうえで、この点がポイントになります。

 

判決が挙げるチェックポイントは以下のようなものです。

①被後見人自身の生活状況や心身の状況:どの程度家族の介護を必要とする状態だったかなど

②親族関係の有無・濃淡:配偶者や同居する親族であったかなど

③同居の有無その他の日常的な接触の程度:同居して毎日介護にあたっていたかなど

④被後見人の財産管理への関与の状況など、その関わりの実情:被後見人の日常生活を全面的に介護、援助していたかなど

⑤被後見人の日常生活における問題行動の有無・内容:問題行動が突発的なものであり、予見できなかったといえるかなど

⑥これらに対応して行われている監護や介護の実態:日ごろから、徘徊を防ぐべく施錠やブザーを設置するなど対策をしていたかなど

 

これらはあくまで目安にすぎません。裁判例は、これらを総合考慮して、被後見人を現に監督しているか、監督することが可能かつ容易であるなど、衡平の見地から責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるかという観点から判断する、としています。

しかし、この基準は明確とはいえず、どのような場合に責任を負うかの判断は、今後の裁判例の蓄積を待つほかないのが現状です。例えば、上記判決の配偶者は、夫(91歳)の介護をしていたものの、自身も85歳と高齢であり、また要介護1の認定を受けていたことなどから、夫の行動を監督することが現実的に可能だったとはいえないとされました。また、上記判決の長男は、遠方に居住しており、月3回程度父親のもとを訪れていたにすぎないことから、その行動を監督することが可能だったとはいえないと判断されています。

これらは一応の参考にはなるものの、絶対的な基準ではありません。家族の責任という問題は、各家庭のケースごとに多角的に検討することが必要な問題だといえます。

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