%e9%81%ba%e7%95%99%e5%88%86%e3%81%af%e3%81%a9%e3%81%ae%e3%82%88%e3%81%86%e3%81%ab%e8%a8%88%e7%ae%97%e3%81%99%e3%82%8b%e3%81%ae%e3%81%a7%e3%81%99%e3%81%8b%ef%bc%9f遺留分はどのように計算するのですか?

Q:亡父には6000万円の遺産がありました。相続人は私と兄の二人です。  父は6000万円のうち3000万円を私に、3000万円を兄に相続させる遺言を書いていました。  ところが、父は生前兄に対して1億円を贈与していたことが判明しました。私は兄にいくらの遺留分を主張できるのでしょうか?   A:次のような計算によって算出します。 1.遺留分算定の基礎となる財産を求めます。 相続開始時に残っている遺産 + 贈与財産の価額 - 相続債務(①式) ご相談例では、「遺産6000万円+生前贈与1億円=1億6000万円」 2.一人当たりの遺留分割合を求めます。 法定相続分 × 2分の1(②式) *ただし、亡くなったのがお子さんで、その両親のみが相続人の場合は 法定相続分 × 3分の1 ご相談例(相続人は子供二人)では、「2分の1×2分の1=4分の1」 3.遺留分額を求めます。 算定基礎財産(①式の答え)×一人当たりの遺留分割合(②式の答え)……(③) ご相談例では、「1億6000万円×4分の1=4000万円」 4.遺留分侵害額 遺留分額(③)から、以下のものを控除した金額が、受贈者に請求できる金額となります。 あなたが相続により取得した財産 あなたが相続によって負担すべき債務額 あなたの特別受益 ご相談例では、あなたは相続によって3000万円を取得していますので、4000万円-3000万円=1000万円が、侵害された遺留分額となり、この金額を兄に対して請求できることになります。 Q:亡くなった父には、遺産はありませんでした。しかし、父は、兄に対して、亡くなる20年以上も前に自宅の不動産を生前贈与していました。この贈与も遺留分減殺の対象となるのでしょうか?   A:相続開始の日より1年以上前になされた生前贈与については、「遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合」に限って、遺留分の計算に入れることができるとされています(民法1030条)。すると、そのような事情がなければ、20年も前の生前贈与は遺留分減殺の対象とはならないようにも思われます。 しかし、「特別受益にあたる生前贈与」については扱いが異なります。なぜなら、遺留分の算定については、特別受益の規定が準用されることになっているからです(民法1044条、民法903条)。 裁判例も、特段の事情のない限り、特別受益にあたる生前贈与は、相続開始の日より1年以上前のものであっても、遺留分減殺の対象になるとしています(最判平成10年3月24日)。 設例の場合、亡父の兄に対する生前贈与は特別受益にあたりそうです。もし特別受益にあたると判断されれば、20年も前の生前贈与ではありますが、遺留分減殺の対象となり、目的の不動産について遺留分減殺を主張することができることになります。 遺留分侵害額請求権には期間の制限があります。 1 遺留分権利者が、相続が開始した事実、および自分の遺留分が侵害されている事実を知ったときから1年間、遺留分侵害額請求権を行使しなかったとき または 2 相続の開始から10年が経過したとき は遺留分侵害額請求権は時効によって消滅してしまうのです。 そのため、遺留分が侵害されたことが分かったら、できるだけ早期に遺留分侵害額請求の通知をしなければなりません。それによって、時効の進行を止めることができるのです。 また、その通知は確実に証拠として残るよう、内容証明郵便によって行うべきです。 遺留分を侵害された相続人は、侵害した相手方に対して遺留分侵害額請求の「通知」をすれば良いのです。 遺留分は裁判上の手続で行使する必要はありません。 遺留分侵害額請求について詳しくは、〔 遺留分侵害額請求とは何ですか? 〕をご覧下さい。 遺留分侵害額請求の通知は必ずしも書面でする必要はなく、口頭でもすることができます。 しかし、遺留分侵害額請求をするには期間制限がありますが、口頭の通知では期間内に通知をしたことを立証するのが難しくなってしまいます。 したがって、遺留分侵害額通知は、必ず書面で、しかも内容証明郵便によって行うのが良いでしょう。 Q:長男は、被相続人から、生前に旅行費用として50万円の贈与を受けていました。この50万円は特別受益ですか。   A:特別受益とは、共同相続人のなかで、被相続人から、次のような特別の利益を受けていた人がいる場合、その受けた利益も遺産の一部とみなし、分割の対象とすることで、相続人間の公平をはかる制度です。 1 遺贈 2 婚姻のための贈与 3 養子縁組のための贈与 4 生計の資本としての贈与 ここで生計の資本としての贈与とは、「遺産の前渡し」といえるだけの特別な贈与でなければなりません。「特別な贈与」かどうかは、贈与された財産の価格、贈与の経緯、相続人の受けた利益などが基準になります。 この基準からすれば、設例のように50万円程度の旅行費用ですと、特別受益が認められる余地はないと考えられます。 Q:兄は、亡くなった父名義の家屋を長年にわたりタダで使用していました。親子とはいえ、兄自身のものではない家屋を無償で使用したことは、ほかの兄弟が自分で住居費を支払っていたことに比べると、特別な利益のように思います。これは特別受益になりませんか?   A:これは、原則として、特別受益にはならないと思われます。 例えば、兄が、20年ものあいだ、なんら家賃等の支払いをすることなく、亡父名義の建物で生活していたケースを考えてみましょう。この地域の家賃相場額を月5万円だとすると、兄は20年間で1200万円もの利益を得ていたことになります。では、遺産分割にあたって、この1200万円は、すでに兄が遺産の一部を受け取ったものとして計算する(持ち戻し計算をする)べきでしょうか。 しかし、特別受益というのは、「遺産の前渡し」といえるような贈与などについて認められると考えられています。では、親が自宅に自分の子どもを住ませることは「遺産の前渡し」でしょうか。親が子どもを自宅に住まわせても、それによって親の財産が減るわけではありませんので、これを遺産の前渡しと捉えるのはふさわしくないように思われます。それゆえ、この場合には、特別受益は認められないことになるのです。 この点、大阪家裁平成6年11月2日付の審判は、兄が長年使用していても、被相続人の財産には何らの減少がないという理由で、特別受益にはあたらないと判断しています。また、このケースでは、特別受益だと認めても、持ち戻し免除の意思表示が認められるとして、持ち戻し計算をすることを否定しています。 反対に、建物の使用利益の持ち戻しを認めた判例は、私の知る限り存在しません。では、建物の無償使用の利益は、いっさい特別受益として認められないのでしょうか。 私は、そう言い切ることもできないと思います。例えば、父が所有する建物がアパートで、その一室を兄が無償で使用していたというような場合には、その一室分だけ父の家賃収入が減ることになるわけですから、このような事情があるケースでは、兄に特別受益が認められる余地があると思われるからです。 Q:兄弟のうち、長男だけが亡父の生命保険金の受取人に指名されており、死亡保険金1000万円を受け取りました。その分、ほかの遺産については、長男の取分は減るのでしょうか?   A:生命保険金は、受取人の指定がある場合、遺産ではなく、受取人に固有の権利と考えられています。ですので、長男が受け取った1000万円は遺産分割の対象とはなりません。 しかし、長男は1000万円を受け取ったうえに、ほかの遺産についてまでも法定相続分どおり取得できるのでしょうか?それでは不公平な感じがします。そこで、生命保険金が特別受益となるかが問題となるのです。 この点、裁判所は、生命保険金は原則として特別受益にあたらないとしています。しかし、そもそも特別受益とは、特別に利益を受けた人とそれ以外の人の公平をはかるための制度です。それゆえ、この目的に照らして、相続人間の不公平がとうてい認められないほどに著しいと評価できる特別の事情があれば、民法903条を類推適用して、特別に受けた利益を持ち戻すことができるとしています(最決平成16年10月29日)。 では、そのような「特別の事情」とは、どのような事情なのでしょうか。裁判例によると、決め手となるのは、①受け取った保険金の金額、②遺産総額に対するその割合、③被相続人と保険金受取人が同居しているか否か、④保険金受取人の介護に対する貢献度などであり、これらを総合的に考慮して判断されることになっています。 例えば、東京高裁の平成17年10月27日付決定は、遺産総額1億134万円に対して、保険金が合計1億129万円にもなり、同居も介護もない事案について、保険金の持ち戻しを認めました。 これに対し、大阪家裁堺支部の平成18年3月22日付審判は、遺産総額6964万円に対して、保険金が429万円 保険金受取人が被相続人と同居し、また入通院の世話をしていたという事案について持ち戻しを否定しています。 Q:亡父には遺産として1000万円の預金があります。相続人は、私と兄の二人です。ところで、兄は父から生前に1000万円の贈与を受けており、これは特別受益だと思います。そうすると、父の遺産は合計2000万円あったことになり、私の取分はその2分の1にあたる1000万円になります。いま1000万円の預金が残っていますので、私はこの全額を払戻したいのですが、問題はありませんか。   A:兄が受けた1000万円の生前贈与が特別受益であれば、その分は遺産の前渡しということになりますから、分割対象となる遺産(みなし相続財産)は、生前贈与の1000万円を戻した合計2000万円となります。そして、兄とあなたの具体的相続分は、その2分の1に相当する1000万円ずつになります。そうであれば、あなたは残っている預金1000万円を全額取得できることになりそうです。 この点、以前の最高裁判例は、預金などの金銭債権は、相続人間で遺産分割の対象にすることを合意した場合は別として、遺産分割協議をまつまでもなく、相続開始とともに法定相続分に応じて当然に分割されるとしていました。 そして、「特別受益は遺産分割の際に考慮される基準にすぎない」と考えれば、遺産分割が不要な預金の場合には特別受益は考慮されない、というのも理屈としては筋が通ることなり、実際に多くの下級審判例で、預金についての特別受益の主張が否定されてきました。 ところが、平成28年12月19日の最高裁決定は、普通預貯金及び定期貯金については、相続により当然分割されることなく、遺産分割の対象となるとし、これまでの最高裁判例が変更されたのです。 したがって、預金についても特別受益を主張し、預金を全額取得するということが可能となりました。 Q:兄弟三人のうち長男だけが父親から学費の援助を受けて大学を卒業しました。 長男が受けた学費の援助は相続の際に考慮されませんか?   A:相続人の一人だけが、被相続人の生前に特別の利益を受けている場合、これを考慮しないと不公平になるときは、その分が遺産の先払いとみなされ、相続分が少なくなることがあります。これが、特別受益の制度です。 一般的にいえば、学費が特別受益となるかは、学費の金額、高等教育か否か、親の収入、社会的地位などによって異なります。 高校までの学費については、親の扶養義務の範囲であり、特別受益が認められた事例はほとんどありません。 大学以上の高等教育についても、両親が裕福であれば扶養義務の範囲内と考えられる場合などは、特別受益が認められないケースもあります。 例えば、他の兄弟が家業を手伝って親の手助けをしている一方で、一人だけが家業の手伝いをせず、4年生の私立大学に通わせてもらったというケースでは、特別受益が認められています(京都家裁平成2年5月1日審判)。 しかし、同じように、兄弟のうち一人だけが大学(医学部)を卒業させてもらったケースでも、親が開業医であって、親の資産、社会的地位を基準にすれば、その程度の高等教育をするのが普通だと認められることから、特別受益は否定されています(京都地裁平成10年9月11日判決)。 Q:相続人は妻、長男、次男の3人です。被相続人の遺産としては3000万円がありますが、長男は、被相続人から1000万円の生前贈与を受けていました。この場合、各自の相続分の計算方法を教えてください。   A:遺産分割の基準となる相続割合は民法によって決められています。これを法定相続分といいます。設例の場合、法定相続分は妻2分の1、子である長男・次男は各自4分の1となります。 しかし、長男が1000万円もの生前贈与を受けていたにもかかわらず、遺産の3000万円を法定相続分通りに分けるというのは、いかにも不公平です。 そこで、このような不公平を是正するため、民法が定めたのが「特別受益」という制度です。 上記の例で説明しましょう。 長男が被相続人から受けた1000万円の贈与が特別受益にあたるとします。 その場合、相続分の計算においては、残された遺産3000万円に贈与された1000万円を加えた、4000万円を「みなし相続財産」とします(このように、前払いされた遺産をいったん戻して、各自の相続分を計算することを、「持ち戻し計算」といいます。) そして、みなし相続財産4000万円を法定相続分に従って分配し、さらに各人が受けた特別受益を控除して、各人の取得額を計算します。 相続人 取得額 妻 4000万円 ÷ 2 = 2000万円 長男 4000万円 ÷ 4 -1000万円 = 0円 次男 4000万円 ÷ 4 = 1000万円 このような計算で導き出される各相続人の相続分を「具体的相続分」といいます。 したがって、遺産の3000万円は、妻が2000万、次男が1000万円を取得します。長男は遺産から何も取得できませんが、贈与で1000万円を受けているので公平性は保たれることになるのです。