inherit-z3賃借人が自殺した場合、その相続人は損害賠償責任を負いますか?

Q.兄が、借りていたアパートで自殺をしました。相続人である私は、その損害を賠償する責任を負いますか?   A.建物の賃借人が、賃借建物内で自殺をした場合、その相続人は、建物内で自殺したことによって賃貸人に生じた損害につき、賠償する義務を承継します。 自殺事件の起きた建物は賃貸物件としても価値が下がってしまいます。 賃借人は、賃貸借契約に基づく善管注意義務として、賃貸物件を、自殺などによって心理的に嫌悪される事情を生じさせて目的物の価値を低下させないようにする注意義務を負っています。 賃借人が、賃借建物内で自殺した場合には、賃借人としての善管注意義務に違反することになりますので、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生します。 そして、相続人は、被相続人の一切の権利義務を相続によって承継するため(民法896条)、被相続人の自殺によって生じた損害を、賠償する義務も承継することになります。 それでは、どれだけの損害を賠償しなければならないのでしょうか? 自殺によって家賃に生じる損害は、裁判例では、自殺してから1年間は相当賃料額の全額、その後の2年間は相当賃料額の2分の1の額、とされることが多いようです。 相続人がこのような賠償義務を免れるためには、相続放棄の手続をする必要があります。 Q:実際には平成27年5月7日に作成したにもかかわらず、平成26年5月1日の日付が記載された遺言で相続手続ができますか?   A:結論として、その遺言は無効となる可能性が高いです。 作成年月日は遺言に必ず記載しなければならない事項です。なぜなら、複数の遺言がある場合には、日付の新しい遺言が有効となるなど、日付は極めて重要な記載事項だからです。 判例の中には、実際に作成された日付と記載とに齟齬があったとしても、誤記であり真実の作成日が容易に判明する場合には遺言は無効とならないとして、遺言の有効性を認めたもの(最高裁昭和52年11月21日)もあります。 しかし、遺言の有効性が認められるのは例外的な場合で、多くの判例で遺言を無効と判示されています(東京高裁平成5年3月23日、平成26年11月25日等)。 以上のように遺言の作成には専門的な判断が必要となるため、弁護士にご相談ください。 Q:父の遺言書に「全ての財産を○○○○(私)にまかせる。」と書かれています。私が全ての財産を相続することができますか?   A:遺言書は、「相続させる。」だとか、「遺贈する。」などの法律用語で記載するのがベストです。それぞれ法的な意味あいがあり、誤解を防止することができるからです。 しかし、自筆証書の場合、法律の素人である個人の方が作成するため、問題となる記載が珍しくありません。 その中でも特に問題が多いのが、「まかせる。」だとか、「委託する。」だとか、「委任する。」などという記載です。ご本人は相続させるつもりで書いたのかもしれませんが、日本語として素直にそう読めません。 判例がいくつかありますが結論は分かれます。 東京高裁昭和61年6月18日は、「○○家の財産は全部Aにまかせる。」という遺言について、遺贈を否定しました。 大阪高裁平成25年9月5日は、「財産については私の世話をしてくれた長女の○○に全てまかせます。」との遺言について、この遺言を包括遺贈だと認定しました。 遺言の解釈は、文言だけでなく、遺言が書かれた背景事情等を総合的に判断して行われますので、事例によって結論が異なるわけですが、上記何れの判例も、高裁は原審の判断を覆しており、如何に微妙な判断かが分かります。 遺言を作成する際はトラブルを防止するため弁護士に相談することをお勧めします。 Q:3人の子どもの一人に全ての遺産を相続させという遺言書があります。ところが、その相続人は被相続人より先に死亡してしまいました。その相続人の子どもが代わりに全ての遺産を取得できますか? A:被相続人より先に死亡した子どもには相続人としての資格はありません。しかし、その子どもに代わって、その子ども(孫)に相続人としての資格が認められます。これを代襲相続と言います。 それでは、この孫は、前述の遺言書によって、全ての財産を相続することが出来るのでしょうか。 この点、平成23年2月22日最高裁は、「代襲者その他の者に遺産を相続させる意思を有していたみるべき特段の事情のない限り、(遺言書は)その効力を生じることはない。」として、原則としてこれを否定しています。 結果として、代襲相続人には法定相続分が認められるのみで、全ての遺産を相続させるという遺言の効力は主張できないことになります。 そのような場合に備えて、財産を残したい相手が先に亡くなった場合には、その子どもに全ての遺産を相続させる旨を遺言書に記載するのが賢明です。 正直言って筆跡鑑定は裁判所はそれほど重視していません。 訴訟事件で業者に依頼することもありますが、私的鑑定について言えば、依頼者にに有利な筆跡鑑定をしてくれるわけですから、その信頼性は言わずもがなです。裁判所が行う鑑定にとしても、「この程度のことは自分で出来る。」という程度の鑑定書が出てくることも珍しくありません。 「裁判で負けたことがない。」というふれこみの業者もいますがその真偽は妖しいものです。事実、裁判所も筆跡鑑定をあまり重視しない傾向にあります。「筆跡鑑定は多分に鑑定人の経験と勘に頼るところがあり、筆跡鑑定の証明力には限界がある。」(東京地裁平成26年11月25日)というのが、裁判官の本音でしょう。 自筆証書遺言は全文を自分で手書きしなければなりません。これを自署と言います。自署でない遺言書はそれ自体が無効となります。裁判でもこの「自署」が争われることが珍しくありません。 「自署」か否かを判断する方法の一つとして筆跡鑑定があります。では、筆跡鑑定とはどのように行われるのでしょうか? 筆跡鑑定は、遺言書に書かれた筆跡と本人によって書かれた他の書面の筆跡の対照によって行われます。この他の書面を探すのが意外に難しいのです。同じ人の筆跡でも年々変化している可能性があります。出来るだけ遺言書が作成されたとの同じ時期の書類、しかも本人によって書かれたことが間違いないと思われる書面を探す必要があるのです。 対照となる他の書類を見つけることが出来れば、それと遺言書の筆跡とを対比することになります。文字の傾斜、文字のはね方、とめ方等々を、文字の全体、そして文字の部分ごとに検討することになります。その検討の結果を記載したものが鑑定書になるわけです。 それでは、この鑑定は裁判の手続ではどのように行われるのでしょうか? 鑑定には裁判所が鑑定人を選任して行う鑑定と、事件当事者が鑑定業者に依頼して行う私的鑑定とがあります。通常は当事者双方が私的鑑定を行い、鑑定書を証拠として提出し、必要があれば、裁判所が鑑定人を選任して公的鑑定を行うことになります。 筆跡鑑定にはどの程度の費用がかかるのでしょうか? 内容によりますが概ね10万円から50万円程度のようです。 偽造された遺言書は無効であるだけでなく、遺言書を偽造した相続人は相続権を奪われる可能性があります。 被相続人以外の者が被相続人の名前を使って遺言書を作成することを遺言書の偽造と言います。公正証書遺言は、公証人が本人確認して遺言書を作成するため、偽造の可能性が全くないとは言いませんが、可能性は少ないと思われます。しかし、自筆証書遺言については偽造が容易であるため、偽造が問題となることが少なくありません。 遺言書が偽造されたものであるか否かは最終的には裁判所が判断をすることになります。裁判所は、筆跡の対照、遺言の内容、作成や発見の経緯、その他背景事情を総合的に考慮して判断します。 その結果、被相続人が自著したものであることが否定されれば、その遺言書は無効となるわけです。 しかし、遺言書が無効となるだけでだと思ってはいけません。相続人が遺言書を偽造したと認定された場合には、遺言書が無効となるだけではなく、相続権を奪われるという重大な不利益を被ることになります。遺言書の偽造、変造は民法891条5号で相続人の欠格事由とされているからです。 さらに、遺言書の偽造は刑法上の私文書偽造罪等の刑事犯罪となる可能性があるので注意が必要です。 Q:被相続人がこども名義でした預金は遺産分割の対象となりますか? A:結論から言うと遺産分割の対象となる可能性があります。 相続の対象となるのは被相続人の財産です。そして、被相続人の財産か否かは、名義で判断されるのではなく、実質的に被相続人の財産であるかによって判断されます。といっても、通常は、名義と実際の所有関係は一致するのが通常です。 ところが、特に預金については、親がこども名義で預金を作ってやり、こつこつと貯金をするということが行われています。このような預金も成人になって、親からこどもに贈与されてしまえば、預金の権利者は実質的にもこどもということで問題がありません。 しかし、預金通帳と印鑑を親が管理したままで、こどもは親が預金をしていることも知らなかったという場合には、その預金は名義上はこどものものであっても、実質的には親の財産と言わざるを得ません。 このような預金を「名義預金」と言い、相続税の対象にもなってしまいますし、遺産分割の対象にもなってしまいます。 特に、課税逃れのために利用されるこども名義の預金について税務署は神経をとがらせており、相続税の調査の際には、被相続人のみならずこども名義の預金を調査することがあります。その調査の結果、名義預金が判明し、相続税が追徴されることがありますので注意が必要です。 Q:私の父は、兄に5000万円相当の「不動産を相続させる」という内容の遺言書を残しました。父にはその他に5000万円相当の遺産があります。この場合、残っている遺産は、私と兄とで2分の1ずつ分けるのですか?   A:兄に「相続させる」とされた不動産が特別受益にあたるのであれば、不動産の5000万円を持ち戻し計算することになります。したがって、 見なし相続財産 5000万円(不動産)+5000万円(その他財産)=1億円 具体的相続分=1億円×2分の1(法定相続分)=5000万円 となります。従って、兄は不動産ですでに5000万円を取得するので、その他の財産は全て「私」が取得することになります。 それでは、「相続させる」と書かれた遺言は特別受益になるのでしょうか。 この点、「相続させる」と記載された遺言は、通常、遺産分割の方法を指定した遺言であると理解されています。つまり、お父さんは兄に対して不動産を取得させるという遺産分割の方法を指定したのです。このような「相続させる」遺言は遺贈とは区別されています。 ところで、特別受益について規定している民法903条には、「遺贈」という言葉はありますが、「相続させる」遺言については書かれていません。したがって、「相続させる」遺言については特別受益の適用はないとも思われます。 しかし、遺贈であっても、「相続させる」遺言であっても、一部の相続人が特別な利益を受けることには変わりありません。遺贈であれば特別受益が認められ、「相続させる」遺言であれば特別受益が認められないというのでは不公平です。 従って、「相続させる」遺言の場合でも遺贈の場合と同様に持ち戻し計算をすべきです。山口家裁萩支部平成6年3月28日審判、広島高裁岡山支部平成17年4月11日決定などは「相続させる」遺言につき持ち戻し計算することを肯定しています。 しかし、遺言によっては、「兄は、不動産を取得せよ。そのほかの財産は法定相続分通り分割せよ。」というのが遺言の趣旨と考えられる場合もありえます。このような場合には、「相続させる」と記載された財産は持ち戻しと対象にすべきではありません。遺言が作成された経緯や、被相続人と相続人との関係等を具体的な事情によっては持ち戻し計算が否定される余地もあるものと考えられます。 Q:特別受益が認められても、持ち戻し計算をしなくてよい場合はありますか?   A:はい、あります。 それは、被相続人自身が、「持ち戻しをしなくてよい」という意思表示をした場合です。 これは、民法903条3項に定められており、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしたときは、持ち戻し計算をしなくてよいことになっています。 とはいえ、被相続人が「この生前贈与については持ち戻さなくてもいいよ」などと明示的に意思表示することは稀です。 ところが、そのような明らかな意思表示がなくても、裁判所は一定の場合には、黙示の意思表示があったとして、持ち戻しを免除している場合があります。 しかも、裁判所は広く持ち戻し免除の黙示の意思表示を認定しています。 特別受益が認められる要件が厳しいのに加え、さらに特別受益が認められても持ち戻し免除の意思表示が広く認定されるため、持ち戻し計算が行われるケースはそれほど多くありません。