inherit-c10相手方と会わずに遺産分割をすることができますか?

Q:亡父の相続人は私と兄と姉の3名です。父には八王子に不動産その他の遺産がありますが、以前から兄弟関係が悪いため、互いに会って話をするのも精神的に負担です。一度も会わずに遺産分割をすることができるでしょうか?   A:弁護士を代理人にして交渉すれば、相手方と会ったり話したりすることなく遺産分割をすることが可能です。 具体的には、弁護士に遺産分割の交渉を依頼すると、弁護士は相手方に受任通知を発送し、ご本人への直接の連絡はしないよう通告します。その上で、遺産分割協議を開始し、協議が難しければ、遺産分割調停や審判を申し立てます。ご本人が、調停期日や審判期日にも、出頭したくないということでしたら、出頭せずに手続を進めることが可能です。 なお、遺産分割の当事者の代理人となることができるのは弁護士に限られます。行政書士や司法書士、その他の士業が、紛争当事者の代理人となることは弁護士法により禁止されておりますので、注意が必要です。 Q:父は、兄の子供を養子にしたため、私の法定相続分はその分減ってしまいます。兄の子供を養子にしたのは節税目的なのですが、このような養子縁組も有効なのですか?   A:節税目的の養子縁組は、それが節税目的であるということだけで無効になることはありません。 養子縁組の届出をしても、縁組の意思がない場合には、その養子縁組が無効となります(民法802条1号)。ここに養子縁組の意思とは、単に養子縁組の届出をする意思ではなく、実質的な親子関係を創設する意思と考えられます。 したがって、実質的な親子関係となる意思がないという場合には、養子縁組自体が無効となる可能性があるのです。 ところで、相続税の計算においては、3600万円+600万円×相続人数までは控除額とされ、この金額までの遺産には相続税はかかりません。したがって、相続人が1人増えると、相続税の控除額が増えることになるので、この点で養子縁組は節税対策になるわけです。 そのため、節税対策のために養子縁組をするケースというのは実際に存在します。 一方で、養子縁組によって他の相続人は相続分が減ることになるため、不利益を受ける相続人が、節税目的の養子縁組は無効だと主張して裁判となることもあり、下級審では養子縁組が無効とされたケースも少なくありません。 しかし、平成29年1月31日の最高裁判決は、「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組みをする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」として、節税目的というだけで縁組が無効となるものではないと判断しました。節税意思と縁組の意思は両立するというわけです。 したがって、養子縁組の効力を争うには、節税目的というだけでなく、他の事情から養子とする意思がないことを立証することが必要となります。 Q:長男に全ての財産を相続させたいと思っていますが、遺産を全て長男に相続させるという遺言を書いても、他の相続人に遺留分を請求できる権利があると聞きました。事前(相続開始前)に遺留分を放棄してもらうことは可能ですか。その際、念書を作成しておけば足りますか。   A:事前に遺留分を放棄することは可能です。 ただし、家庭裁判所に申立てを行い、許可を得ることが必要です。   遺留分とは、法律上一定の相続人が取得を認められている、相続財産に対する一定の割合のことをいいます。 本来、被相続人には自己の所有する財産を自由に処分する権利が認められています。死後の遺産についても、被相続人は、遺言によって自由に処分することが認められているのです。一方で、民法上、法定相続人にも相続権が認められています。 この相反する制度を調和させるため、遺留分制度が設けられたのです。 遺留分制度は、被相続人が自由に相続財産を処分した結果、相続権を侵害された相続人を保護するための制度ですから、遺留分を請求するかしないかは相続人の判断に委ねられます。 とはいえ、相続が開始していないうちから遺留分を放棄する場合については、民法は慎重な判断を要求しています。 すなわち、相続開始前の遺留分の放棄については、家庭裁判所が、 といった要件を検討し、相続人が放棄を強要されることがないようチェックすることになっているのです。 家庭裁判所において、このような要件が審査され、問題ないと判断された場合は、事前に遺留分の放棄をすることができます。 したがって、事前に遺留分を放棄するとの念書を書かせていたとしても、民法が事前の遺留分放棄については裁判所の許可を要件としている以上、その念書の効力は認められない可能性が高いですので、注意が必要です。 Q:亡父は、生前、私の夫に対して、自宅購入資金として2000万円の贈与をしてくれました。夫に対する生前贈与は私の特別受益にあたるのでしょうか? A:特別受益にあたるとすれば遺産から相続できる相続分は減ることになります。夫に対する生前贈与も本人に対する特別受益にあたるのでしょうか? この点、夫婦といえども基本的には別人格です。したがって、夫に対する贈与は、妻に対する特別受益とはならないことが原則です。 しかし、特別受益という制度は相続人間の実質的公平を実現するための制度です。したがって、夫に対する生前贈与が、実質的には妻に対する生前贈与と異ならないという場合には、妻に対する生前贈与と扱われる可能性があります。 実際に、配偶者に対する贈与が、実質的には本人に対する贈与であるとして、特別受益が認められた事案があるので注意が必要です。 Q:亡くなった父の遺産には預金があります。相続人は兄と私の2人です。弁護士に相談して遺産分割協議をしてもらいましたが、話し合いが成立しませんでした。金融機関から法定相続分の2分の1にあたる預金を払い戻すことができるでしょうか?   A:結論から言うと、少なくとも、普通預金、普通貯金、定期貯金については、遺産分割協議をしなければ預金の払戻しをすることはできません。 実は、以前の最高裁判例は、普通預金は遺産分割手続をとるまでもなく、相続分に応じて当然に分割されるので、相続人は金融機関に払戻しを請求できると判断していました。 ところが、平成28年12月19日の最高裁判決によって、普通預金、普通貯金、定期貯金債権については、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされ、従来の判例が変更されたのです。 このように判例が変更された理由は、預金が遺産分割の対象とならないとすると、預金については特別受益や寄与分が主張できないという極めて不合理な結論になってしまうからです。なお、平成29年4月6日の最高裁判決により、定期預金債権及び定期積金債権についても、相続によって当然に分割されない旨が判示されました。 しかし、一方で判例変更によって様々な問題が発生することにもなります。 1つは、葬儀費用等のための預金の払戻しです。これまで金融機関は、葬儀費用等のための払戻しについては比較的柔軟に応じてきました。少なくとも法定相続分の払戻しは判例自体が認めていたからです。しかし、預金についても遺産分割協議が必要だということになると、葬儀費用等のための払戻しについても慎重にならざるをえないと考えられます。遺産分割が成立するまで預金を払い戻せないという不都合を何とかするため、仮処分による払戻しも検討が必要となります。 また、相続開始後に預金がロックされる以前に、一部の相続人が、預金を全額払戻してしまった場合に、払い戻されたお金が遺産分割の対象となるかという問題もあります。現金が実際にあれば遺産分割の対象となると考えられますが、既に消費されてしまった場合に遺産分割の対象となるかは判断が難しいと思われます。 さらには、相続発生後、預金がロックされる以前に、相続人の一人が法定相続分に従って預金を払い戻した場合に、残る預金は、法定相続分に従って分割するのか、払戻しを受けた相続人には分割されないのかという問題もあります。 その他にも、最高裁の判例変更によって様々な問題点が発生するため、実務上の混乱が予想されるところです。 Q:亡くなった父はアパートを所有しており、父の死後も賃料は父の口座に振り込まれています。遺産分割協議の結果、このアパートは弟が相続することになりましたが、遺産分割前の賃料の分配を請求することはできますか?   A:遺産から生じた賃料等の収益は、相続分に応じて各相続人に帰属します(最高裁平成17年9月8日判決)。 そこで、相続人間で、賃料を遺産分割の対象にすることに合意した場合は、遺産分割調停でその帰属を決めることができますが、それ以外の場合には法定相続分に従って各人に帰属することになります。つまり、相続開始後に発生した賃料は、遺産分割でその帰属を決めるまでは、法定相続分に従って相続人が取得することができるのです。 ご質問のケースでは、遺産分割協議で、遺産分割前の賃料までも弟が取得すると決めた場合には、賃料の分配を請求することはできません。しかし、そのような取り決めがされていない限り、遺産分割前に発生した賃料については、法定相続分に従って分配することを請求できます。 Q:私の長男は若い頃から競馬やギャンブルにはまり、家族に迷惑をかけてきたため、家族との折り合いが良くありません。そのため、長男には何も相続させたくないのですが、長男にも遺留分があると聞きました。長男から遺留分を奪うことはできないでしょうか?   A:長男には遺留分があるので、長男には何も相続させないという遺言書を書いても、遺留分が主張される可能性があります。そのため、遺留分を奪えないかというご相談を受けることがあります。 法律的に遺留分を奪うことができる方法は、次の3つです。 1つめの方法は「相続欠格」です。相続欠格とは、一定の非行行為を行った相続人にについて、相続権が当然に失われることになるという制度です。ただし、欠格の理由となるのは、被相続人を故意に死亡させたとか、遺言を偽造したなどの事実が必要です。そのため、相続欠格が認められるケースは極めて限られており、容易には認められません。 2つめの方法は、「相続廃除」によって相続人の資格を奪う方法です。相続人の資格が奪われる結果、長男には遺留分も認められないことになります。しかし、相続廃除は、被相続人に対して虐待や重大な侮辱、その他の非行があったときに、家庭裁判所の審判によって決定されるものです。そのため、これもハードルは高いと考えて頂いたほうが無難です。 3つめの方法は、「遺留分の放棄」です。相続放棄は相続開始前にすることはできませんが、遺留分の放棄は、相続開始前にもすることができます。遺留分放棄の手続をした相続人には遺留分を行使することができなくなりますので、遺留分を奪うという目的を達することができます。 遺留分の放棄をするには家庭裁判所の許可が必要です。長男に無理やり遺留分放棄をさせるということはできませんが、例えば、一定の財産を生前贈与する代わりに相続放棄の手続をさせるよう説得することなどが、方法として考えられます。 Q:先日、八王子に住んでいる私の従姉妹が亡くなりました。従姉妹には相続人がなく、付き合いのある親戚は私だけでした。従姉妹の財産を私が相続することはできるでしょうか? A:相続はできませんが、「特別縁故者に対する財産分与」が認められる場合があります。 「特別縁故者に対する財産分与」とは、被相続人に相続人がいない場合に、家庭裁判所の審判によって、被相続人と特別の縁故があった方に遺産を分与するという手続です。特別の縁故にあたるかどうかは、被相続人との親族関係や、生前の関わり方などを総合的に考慮して、被相続人がその方に遺産を与える遺志があったと認められるか否かによって決められます。 ご質問のケースでも、特別な事情があって、一般的な従姉妹同士の関係を超える人的な関係があったと認められる場合には、特別縁故者に対する財産分与が認められる可能性があります。 特別縁故者に対する財産分与を求めるには、まずは、相続財産管理人の選任を申し立てます。その後、被相続人に、相続人、相続財産を贈与された者、債権者がいないことが確認され、残った相続財産がある場合に、あらためて財産分与の申し立てをする必要があります。 財産分与が認められるために必要な主張や証拠は、専門的な判断が必要となりますので、弁護士に相談することをお勧めします。 Q:亡夫には多額の負債があったため、妻である私は相続を放棄しました。ところが、その後、夫の勤務先から配偶者に退職金が支給されることが判明しました。私は退職金を受け取っても良いのでしょうか? A:相続放棄をしても、遺産を取得したり処分した場合には、相続を承認したことになってしまいます。これを「法定単純承認」と言います。したがって、死亡退職金も遺産にあたるとすれば、これを受け取ることで相続を承認したことになり、負債も相続することになってしまいます。 それでは、死亡退職金は遺産にあたるのでしょうか。 この点は、個別事案によって異なりますが、一般論として、退職金規程により支給基準や受給権者が定められている場合には、遺産ではなく、受給権者の固有の権利と考えるのが裁判実務です。 遺産ではないということになれば、相続放棄をしても、死亡退職金を受け取ることができますし、死亡退職金を受領しても他の遺産の取得分が減らされるわけでもないということになるのです。 Q:亡くなった父の遺産について話し合いがつかなかったところ、突然、家庭裁判所から調停期日の呼出状が届きました。どのように対応すれば良いでしょうか? A:遺産分割の話し合いがつかない場合には、家庭裁判所に調停を申立てることができます。 調停とは、裁判や審判とは違って、あくまで話し合いによって紛争を解決するための手続きです。しかし、当事者同士での話し合いではなく裁判所の調停委員が間に入り、紛争の解決に必要な情報を整理して、合意による解決を目指していきます。 当事者の一方が遺産分割調停を申し立てると、裁判所が期日を指定し、他の当事者に対して呼出状を送達します。この呼出状を受け取ったら、裁判所から指示された書類を提出し、指定された期日に出頭し、ご自分の希望する遺産分割の方法を説明することになります。 裁判と異なり、調停の場合には、出頭しなかったからといって、不利な判決が下るというわけではありません。しかし、出頭しなければ、最終的には、調停手続から審判手続に移行して、裁判所が審判を下すことになります。また、調停での解決は、審判に比べると柔軟な解決が期待されますので、調停には出頭すべきです。