ご相談事例Case
遺産分割協議の当事者に判断能力が欠けている人がいる場合
Q.父が亡くなり、相続が発生しました。相続人は母と子3人です。遺産分割協議をしたいのですが、母は高度の認知症を患って入院しています。遺産分割協議を成立させるには、どうすればよいでしょうか。
A.お母様に成年後見人を選任する必要があります。
遺産分割をするには、その意味内容を理解し、判断できるだけの能力が必要です。そのような判断能力がない方が遺産分割協議をしても、その遺産分割協議は無効となってしまいます。そこで、遺産分割協議を有効に成立させるためには、本人に代わって行為できる後見人を就ける必要があるのです。
ここで問題となるのは、お母様の判断能力がどの程度かという点です。判断能力がない場合は、必ず後見人を就けなければなりません。これに対して、保佐相当や補助相当の判断能力の方については、必ずしも保佐人や補助人を選任しなければならないわけではありません。ご本人に、遺産分割の内容を理解し判断できる能力があると考えられるからです。その意味では、複雑な遺産分割の場合など、本当にご本人が遺産分割の内容を理解できているか不安な場合は、保佐人等を就けたうえで、保佐人の同意をえて遺産分割をするほうが安全です。
なお、判断能力の程度は、専門家である医師に判断していただく必要があります。素人判断で、「大丈夫だろう」と思っても、後から「遺産分割当時にすでに判断能力はなかったから、遺産分割は無効だ」と主張される可能性があるからです。
次に、後見人を就けるとして、お子さんの一人を後見人とした場合には別の問題が生じます。お母様と子どもたち3人とは、遺産分割協議の当事者の立場にあります。したがって、遺産をどう分けるかを決める際に、後見人である子どもと本人であるお母様との間で利益が対立しかねません。このような事情がある場合は、遺産分割手続の中で、後見人は本人を代理できないと決められています。
だからといって、遺産分割協議を成立させるためだけに、わざわざ第三者に後見人になってもらい、遺産分割協議が終わった後も財産管理をゆだね、しかも毎月数万円の報酬がかかるというのも負担に思われます。
そこで、後見人にはお子さんの1人が就任し、それとは別に、遺産分割協議を成立させる目的に限って「特別代理人」や「後見監督人」を選任してもらうという方法があります。
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